Business Boot Camp 2016 session 03

Business Boot Camp 2016 session 03

日野市主催の「変革力」強化プログラム「ビジネス・ブートキャンプ」のセッション3。
セッションの前半は「レクチャー&ディスカッション」。新しい事業を実践しているリーダーのレクチャーから、ベンチマークとなる事例や考え方を受け取り、自分たちの問題に適合できる原理を導き出します。後半は、それを踏まえながら、実際の問題を題材にして解決へ向かうプロセスを演習する「プロブレム・ベースド・ラーニング」。ふたつのフォーマットを併行させて、認識と実践を関連づけながら思考を進めます。

今回のレクチャーは、ライフネット生命保険株式会社代表取締役会長の出口治明さん。齢60にしてベンチャー起業。本当に困っている人の助けになるサービスを安価に提供する、新しい考え方の保険ビジネスを始められました。もともと生命保険の分野で大きな実積のある方なので、もちろん、まったくゼロからではありません。けれど、日本の一般社会ではリタイアを考えるような年齢で新機軸に向けて乗り出すなんて、本物の意志がなければ
できません。しかも、自己実現のためのビジネスではない。出口さんの在り方自体、これからの社会、未来に必要な、仕事への新しい取組み方だと思います。

その出口さんのレクチャーのテーマは「未来のことを考えよう」。変革を試みるにも、問題を打開するにも、どこに向かって動いて行くのか、つまり、未来のことをどんなふうに考えるのかという命題を、その基層に置かなければなりません。そして、未来のことを考えるためには、現在のことを正確に認識している必要がある。

出口さんは、経済界きっての博識、理論派と言われ、歴史オタクを自称されてもいますが、それ以上に、その膨大で詳細な知識と解像度の高い解釈、シンプルで明解な理論、問題の本質を探求するアプローチに深く納得させられます。一目瞭然ですが、このレクチャーのテーマは、出口さんの著書「日本の未来を考えよう」に由来するもの。この著書に著されたアプローチが、個々の問題解決にも必要なフレームワークだと考えたのです。

レクチャーの始まりに、出口さんはいくつかの言葉を示しました。「森の姿を素直に見なければ一本の木ですら植えられない」。この世界のことをありのままに把握しなければ、未来のことは何もできない、ということです。「タテ・ヨコ思考の重要性」。物事を判断するときに、歴史はどうだったか、世界はどうなっているか、ということを見る。「数字、ファクト、ロジック」。読んで字のごとく、普遍的な事実を基に理論的に考える。この3つが、未来のことを考えるときに必要なアプローチであり、これをフレームワークにして世界と自分との関係を考えることが、とても重要になるはずなのです。

いろいろな面でリテラシーが低いために、考えあぐねて混乱している日本の社会。リテラシーが低いと、不要なもののために右往左往して必要なものを落としてしまったり、騙されて邪魔なものをいっぱい買わされたり、困った人を助ける解決もままなりません。日本の大人は、学力はトップクラスだが勉強しない、学力は高いが独創性に欠ける、などと言われています。残念ながらそうかもしれません。そこから抜け出すには、自分の頭で考え
る力、面倒なことを考え抜く力、サクサク進めるばっかりじゃなくて、行ったり来たり、困ったり迷ったりしながら本質に近づく力が必要なのです。

出口さんのレクチャーを通して、現在の社会で起きている様々な問題を検証した後、後半のセッションに移る前に、セッション2のマヨランさんのレクチャー「Seeds × Needs =Innovation」と、出口さんのレクチャー「未来のことを考えよう」を通して浮かび上がったキーワードをシェア。みなさん、変革のために何をどのように考え、会得して行くのが良いのか、それぞれに見出すものがあったようです。

さて、後半のセッションはプロブレム・ベースド・ラーニング。このセッションでは、問題解決4つのプロセスの後半、「解の発想」と「解の選択」に向けた準備をします。まずは、ソリューション・デザインの手法の中から、それぞれのプロセスで使うフレームワークやツール、そして、プロセスを通過するときのアイディアのダイナミズムについて整理し、プロジェクトを進めるための効果的なミーティングの方法を確認。その後、4人ずつのチームに分かれて、セッション2で演習した「ビジョン・マッピング」を、今度は4人で積み重ねます。この演習を通して更に多くの視点を加え、問題の本質に接近し、明確にし、次のプロセス「解の発想」で提示する企画書の作成に取りかかります。

「解の発想」というプロセスは、ミーティングを重ねることで進みます。アイディアは化合物。化合物は、多様な要素が結合して生まれます。その結合を生む場がミーティング。多様な立場、多様な視点、多様なスキルを持ったメンバーが集まり、出し合うそれぞれのアイディアが結合して、新しいアイディアが生まれるのです。より多くの結合を生み出すために、ミーティングにはルールがあります。そのグループの知性を発揮して最大の効果を得るためのルール。すべてのメンバーが役割を持ち、目的を共有して集まること、そして、すべての議論を肯定的に進めることが必要なのです。その準備をするのがこのセッション。それぞれの問題のオーナーとして、他のメンバーと共有する土台を作るのです。

その土台を表現するのが企画書。どんな土台があって、その土台の上に何を創りたいのかを示すものです。それを頼りに、メンバーはミーティングを進め、アイディアを創り出します。まず大切なのがテーマ。何をどうするためのミーティングなのか、一言でわかりやすく的確に伝わる必要があります。そのテーマのもとで、「前提」と「現状」、そして「目標」を示します。なぜ、このテーマを議論しなければならないのか、その背景、理由、必
要性などを明らかにし、いま起きていること、問題点をリストアップします。ここに、この2回のセッションで掘り下げてきた、問題の本質や的確な課題が表されるはずなのです。そして、目標。問題のオーナーとして、どうなることが望ましく、このミーティングではどこまで到達したいのかを明示します。

ここまでの準備をしてプログラムは折り返しを迎えます。ロジカルに掘り下げる作業から、一転、直観的に、感覚的に、解に向かって登って行くプロセスが始まります。問題の解決がうまく進まないときは、ここまでのプロセスが充分でないことが多い。見落としがちな課題設定。問題を解決するために一番重要な部分が、実は課題設定かもしれません。ここがしっかりできているかどうか、ということが、この後のプロセスで判明する。企画書に、どれだけ本質的な見解が明瞭な言葉で記載されるか。期待されるところです。